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9. 便コントロールしてと言われるけど、どうやるの?水分を摂るようにと言うけど、水やお茶をたくさん飲んでもらっておしっこに行くのを我慢してもらえば便が軟らかくなるわけ?

 ははは、そうじゃありませんよ。高齢者にそんなつらい事させないでください。

 「排便コントロール」について、腰を据えて一筆啓上⁈

 本当は書きたくないんです。とっても難解、複雑、奇々怪々です。2017年に本邦初の「慢性便秘症診療ガイドライン 2017」というものができましたが、そこに書かれている「便秘」の定義は、「本来体外へ排出すべき糞便を十分量かつ快適に排出できない状態」です。わかったようなわからないような、まさに奇々怪々でしょ?さらに、慢性便秘の診断基準というものについては、ほとんど本人の排便感や残便感、その時の便の形状、などが問われ、排便感が低下してきている高齢者は全員慢性便秘に当てはまるのです。よく、「便秘とは」などとうん蓄を垂れているのですが、在宅現場でほしい知識はそこのところではなく、便を出すタイミングやその具体的な方法の方が関心事なわけです。

 でも、これは役に立つと思います。

 BSスコア(ブリストル便形状スケール):「ブリストル便」という便があるわけじゃありません。ブリストルはイギリスのブリストル大学のことです。

①;硬くてコロコロした木の実のような便、

②;いくつかの塊が集まって形作られたソーセージ状の便、

③;表面にヒビ割れがあるソーセージ状(バナナ状)の便、

④;滑らかで軟らかなソーセージ状(バナナ状)の便、

⑤;軟らかな半固形状の便、

⑥;境界がはっきりしない不定形の便、

⑦;水様便。

 一般的にBSスコアが1から2は便秘の便、3から5が正常の便、6から7が下痢の便と区分けされます。便秘や下痢の方は、BSスコアが3から5に近づくほど、それぞれの症状が改善されたとみなされます。

BSスコアの各スコア(タイプ)の形状

 適正食物繊維摂取量は、1日18~20g、こんなの言われてわかりますか?わからなくても心配いりません、何故なら、平成27年の統計では、この目標値を摂取している年齢層は70歳以上の女性だけです。10~40代では、押しなべて少なくどんぐりの背比べです。つまり日本成人全員食物繊維不足というわけですから。

 もう一つ、皆さんが驚く処方の「裏話」を暴露します。それは、

 最近出回っている、しかも、ガイドラインでファーストチョイスに挙げられている酸化マグネシウム、昔は「カマ(マカじゃありません)」今は略称「カマグ」、ですが、本当に安全でよい薬なのかということです。

 過去20数年間、カマグは国内処方薬の中で影が薄れていました。何十年も一部の医師にしか取り上げられなかったはずです。Drヒマダーなんか、大学でカマは使ってはいけない薬(アスピリンもその一つでした)と教え込まれましたよ。なぜ、医療界から葬られたのか、それはこんな一文から想像していただきたい。 「腎機能低下例や高齢者で高マグネシウム血症による重篤な転帰について厚生労働省が過去に数度、注意喚起を発出している。その後も同薬に関連した高マグネシウム血症による死亡の報告が相次いだため、先頃、添付文書で高齢者を慎重投与の対象に追加。長期投与や高齢者への投与に際しては血中マグネシウム値の定期検査を行うことなどの注意書きが追加された。」

 まだまだありますが、こんなに難解、奇々怪々の「便秘」の項目から抜け出して、高齢者の悩み「便秘」を解消する答えを見つけることができるでしょうか?わかりません。だからあなた方も正しい知識を持って真剣に現場の経験を活かしてください。

 臨床的には、4日以上便が出ない状態が便秘と定義されることがありますが、排便周期には個人差がありますので、これはあくまでも便宜上の定義です。たとえば、毎日排便があっても、排便困難や残便感などの症状が強ければ対策が必要です。たとえ1週間排便がなくても、すっきり排便できて本人が困っていなければ、異常とはいえません。

 「毎日便が出ないと不健康である」という考え方そのものに、実は根拠がないのです。

 内視鏡検査の際、「宿便」といわれる硬い便が大腸内にコロコロとあるのを時折見かけます。しかしながら、そのような人達に必ずしも便秘に伴う症状があるかというと、決してそんなことはありません。宿便は、たとえば血行障害や全身的な衰弱などが関わってなると考えられています。巷では「宿便が腸内にあると悪さをする」と誤解されるようになりましたが、宿便を出せば健康になるかというと、それはありえません。宿便があっても健康に生活している人がいる以上、その理論は成り立たないわけです。

 大切なのは本人にとって適切な排便のリズムを見つけること。「3日間便が出ないから異常」と短絡的に考えるのではなく、排便困難や不快な残便感、下痢、モレなど、排便に関して本人が苦痛に感じている問題のすべてを「排便障害」としてとりあげ、個別の対策を立てることが大切です。

 医師の間でも、「出ないよりは、出すにこしたことはない」という理論がまかり通ってきましたから、入院患者さんに3日~4日排便がなければ下剤を用いる、ということが日常的に行われています。「すべての人がコンスタントに出さなければならない」として一律に下剤を投与するのは、むしろ乱暴な考え方だと思います。(Drヒマダーも本意じゃなかったんです。でも、施設や院内スタッフの悩み事を聴くとついつい。反省しています。)

 昔は毎日出ていたのに、今は排便が3日に一度になってしまったので下剤をくださいと言う高齢者の方もいますね。でも、下剤の飲みすぎで下痢をするほうが、よほど腸に悪いのです。まず「出さなければ」という固定観念を捨てていただき、安心のための「下剤中毒」にならないようにすることが大切です。BSスコアを参考にして、無理なく排便でき、後始末も手間がかからないちょうどいい硬さの便を出すことを、排便コントロールの目的とすべきです。

 と長々と書いてきましたが、・・・

頑固な便秘であればあるほど死に直結する質(たち)の悪い便秘が存在するのです。

 それは、抗コリン作用のある薬剤によって引き起こされた薬剤性の便秘です。抗コリン作用のある薬剤、それは、抗コリン薬であるパーキンソン病治療薬、それと抗コリン薬ではないが抗コリン作用の強い、向精神病薬であり、抗ヒスタミン薬であり、ベンゾジアゼピン系睡眠薬であり、三環系抗うつ薬であります。

 なぜこれらの抗コリン作用の強い薬による便秘が死に直結するかというと、頑固な便秘になるほどの抗コリン作用は、ひいては心循環器系の重大な副作用を引き起こす確率が高くなるからです。

 したがって、薬が処方されてから便秘がさらに悪化して2,3日に1度だった排便が1週間以上に延長するようになったら、該当する薬剤の目星をつけて主治医に注意を喚起しましょう。

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