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12. 先生は睡眠薬は出さないと言うけど、こっちの身にもなってほしいわ。一人の入居者さんに夜ずっと関わってるわけにはいかないんだから。

 そうだよね、それは大変だよね、…わかりました。次回から睡眠薬を処方します・・・という会話、皆さんがご家族だったとしたらどう受け取りますか?

 おいおいちょっと待てよ、あんたたちの都合でうちの母親を薬漬けにするのかよ。医者も医者だな、もうあの医者に診てもらわなくていい!

 こうなると、Drヒマダーは本当に暇になってしまうかもしれません。そもそも睡眠薬を処方したがらないDrの意見を聞いてみましょう。

 睡眠薬、眠剤、睡眠導入剤、催眠薬などとも呼ばれ、乱用の危険性のある薬剤として国際条約上でも取り上げられものです。これらの薬は一般的に抗不安作用から意識消失までの用量依存的な効果があり、睡眠薬ではなくて本当は麻酔薬だと言った方がその危険度も少し伝わるのではないでしょうか?特に大多数を占めているベンゾジアゼピン系薬物は国際法上も取引は禁止されている危険薬物です。

 さて、どうしましょうか?睡眠薬のお話は、耳寄り話というよりも「講義」になってしまいます。皆さんの関心事は、なんでもいいから夜寝てもらう方法を教えてほしい、ですよね。でも、皆さんの手元にあるたくさんの処方薬説明書には、何種類もの睡眠薬が目に留まりませんか?Drヒマダーとしては、それらの薬について再認識していただくための参考になる資料を用意したいのです、メーカーの宣伝ではない純粋なものを。

1) バルビタール系睡眠薬…脳の大脳皮質や脳幹に作用して、脳の覚醒を抑えます(とっても嫌な響きですね)。有用な催眠作用をあらわす一方、依存や耐性が生じやすく、仮に過量投与となった場合に呼吸麻痺などの重篤な症状を引き起こします(死に至る)。また薬の中断によってせん妄や痙攣発作などの退薬症候(離脱症状)を生じます。常用薬として使ってはいけない薬だと断言します。

ラポナ、イソミタール、フェノバール

2) ベンゾジアゼピン系睡眠薬…短期的には有効ですが、1~2週間後には耐性ができ、そのため長期間の使用では無効となります。また、中止時にはベンゾジアゼピン離脱症状が生じる可能性があるといわれています。これは反跳性不眠(リバウンドかな)、不安、混乱、見当識障害、不眠、知覚障害などです。したがって、耐性、薬物依存、長期使用の副作用を避けるために処方は短期に限られます。アルコールもこの薬剤も同じくGABA受容体に作用するため、併用は相加作用を強める(倍返し?です)危険性が高く、特に力価の強い薬剤では呼吸中枢を抑制し死に至る危険性もあります。常用により効果が弱くなり数週間でほとんど効果がなくなり、そのために多剤大量処方となりやすく、長期間、高用量の服用で離脱症状が激しく生じるという悪循環を繰り返す薬です。「離脱に入院を要するような致命的な発作を引き起こす可能性がある薬物というのは、ベンゾジアゼピン系やバルビツール酸系の鎮静催眠薬およびアルコールのみである」という専門家もいます。コワイデスネ。

 しかし、いまだに日本ではこの薬が半数以上処方されています。

セルシン、ホリゾン、ジアゼパム、ダイアップ坐剤、コントール、バランス、レスミット、ワイパックス、ロラゼパム、レキソタン、マイスタン、コンスタン、ソラナックス、エリスパン、メイラックス、デパス、エチゾラム、リーゼ、クロチアゼパム、セパゾン、グランダキシン、レスタス、メレックス、などなど。すごい種類と数です、「あ、これ、○○さんと△△さんと××さんが飲んでる」という具合になじみ深いでしょ?だから知ってほしかったんです。

3) 非ベンゾジアゼピン系睡眠薬…1980年代に非ベンゾジアゼピン系の睡眠薬が登場しましたが、ほとんどの臨床試験が安全性と有効性が数週間までしか検証されていませんでした。「ベンゾじゃないから安全です」と強気の販売でしたが、睡眠薬の使用が死亡の危険性を増加させるという報告や安全性、昼間の倦怠感や、健忘といった認知機能への影響、転倒、骨折、事故、薬物耐性や依存(軽度の睡眠障害にしか効かない)において、ベンゾジアゼピン系と差が見られずに疑問視される報告も出てきています。

ゾルピデム(マイスリー)、ゾビクロン(ルネスタ)、アモバン

 それでは、皆さんが待っている、いかにして夜寝てもらうか?について。

 申し訳ない!土下座します!睡眠薬はむしろ使っちゃいけないと豪語したんだから、何か画期的な手法でもきっと伝授してくれるんだろうとご期待の皆さん!大したことは言えません。

1)睡眠時間は人それぞれ、日中に眠気で困らなければ十分。

睡眠時間の長い人、短い人、あるいは季節でも変化するので、8時間にこだわらないでください。歳をとると必要な睡眠時間は短くなるものです。

2)刺激物を避け、眠る前には自分なりのリラックス法を見つけてほしい。

就寝前4時間のカフェイン摂取や就床前1時間の喫煙(ニコチンに覚醒作用があります)は避けましょう。

軽い読書、音楽、ぬるめの入浴、香り、筋弛緩トレーニングを。

3)就寝時刻にこだわりすぎないで、眠たくなってから床に就いて。

眠ろうとする意気込みが却って頭を冴えさせ寝つきを悪くします。

4)同じ時刻に毎日起床。

早寝早起きでなく、早起き優先、それが早寝に通じます。

日曜に遅くまで床で過ごすと、月曜の朝がつらくなります。

5)光の利用でよい睡眠を。

目が覚めたら日光を取り入れ、体内時計をスイッチオンしましょう。

夜は明るすぎない照明を(明るすぎず暗すぎず、暗すぎると脳が不安を感じます)。

6)規則正しい3度の食事、規則的な運動習慣。

朝食は心と体の目覚めに重要です。夜食はごく軽く。運動習慣は熟睡を促進してくれます。

7)昼寝をするなら、15時前の20~30分。

長い昼寝はかえってぼんやりのもとです、夕方以降の昼寝は夜の睡眠に悪影響を与えます。

8)眠りが浅いときはむしろ積極的に遅寝・早起きに。

寝床で長く過ごしすぎると熟睡感がなくなります。

9)睡眠中の激しいイビキ・呼吸停止や足のぴくつき・むずむず感は要注意。

背景に睡眠の病気がありそうです。専門治療が必要です。

10)十分眠っていても日中の眠気が強い時は専門医に。

長時間眠っても日中の眠気で仕事・学業に支障がある場合は専門医に相談します。

車の運転には注意。

11)睡眠薬の代わりの寝酒は不眠のもと。

睡眠薬代わりの寝酒は、寝付けますが深い睡眠を減らします。夜中に目覚める原因となり、飲酒量が増える結果を招きます。

12)やむを得ないときの睡眠薬は医師の指示で正しく使えば安全。

一定時刻に服用し就床します。アルコールとの併用を絶対にしないように。

1)から8)に注意すれば睡眠を促せるはずなんですが…

長い年月を睡眠薬と共に過ごしてきた高齢者の「眠剤」をこの機会にやめさせたいとお考えの場合はどうしたらいいでしょうか?

一般的には、長期間続けてきた睡眠薬を中止する場合には、徐々に減量することがポイントです。そうすることで禁断症状や離脱症状が起こりにくくなります。まずは4分の1の量を減らして1~2週間服用し、問題が無ければさらに4分の1減らすなどして徐々に減量してゆきます。2種類以上の睡眠薬を服用している場合、より緩やかに減量してゆく必要があり、減量する睡眠薬の順番も考慮(弱いものから減量)しなければなりません。

また、認知症の高齢者の場合の睡眠薬の投与はBPSD(認知症の行動心理症状)の治療目的で行われている場合があり、減量や中止はBPSDの再燃につながる場合がありますので慎重に行う必要があります。(BPSDや「せん妄」について書き始めると、もうこれは「講義」になってしまいますし、Drによっても多少の見解の相違が出てくる内容かと思います。これについては、別の機会に、別の場所で触れたいと思います。)

参考にした資料:

睡眠薬、ドクターズプラザ

睡眠障害の対応と治療ガイドライン

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