脳梗塞の原因、抗リン脂質抗体症候群(APS)

先日、若い女性の再発脳梗塞のケースに出会い、原因がわからず、難病(特定疾患)かもしれないと思い、親友の神経内科教授に紹介して診ていただきました。返ってきた病名は、「APSの疑い」・・・、たいしたものだなあと感心して、APSについて成書をひも解いてみると、なるほどこの病気、北大が大御所だったんですね。
彼に頼んでよかったぁ。でも・・・、もっと早くに行ってもらえば良かった。つくづく勉強不足を後悔したものです。
そこで、この聞き慣れないAPSですが、一緒に勉強しましょう。
1. 抗リン脂質抗体症候群(APS)(やっぱり聞き慣れない病気ですね)
抗リン脂質抗体症候群(APS)は、まず、その名が示すように血液中に抗リン脂質抗体という自己抗体が見つかる病気です。そして、流産を繰り返したり、動脈や静脈の血栓症(脳梗塞、肺梗塞、四肢の静脈血栓症など)を起こしたり、血液検査上では血小板が減少(血小板が減少したら出血しやすくなると思った方は鋭い)する、というような特徴を認めます。
2. この病気の患者さんはどのくらい
1997年の受療推計数(つまりこの病気でかかったとされる患者数)は、3,700人とされています。だから、実際にはもっと多いということですね。最初に申し上げたように、あまり聞き慣れない病気、正しく診断されなかった症例がたくさんあると思います。かく言う私も、誤診しました。(ごめんなさい)
3. この病気は自己免疫疾患ですか
この病気の方の約半数は、全身性エリテマトーデス(SLE)に合併していると報告されました。強皮症などという他の膠原病に合併した例もあります。また、こうした膠原病などの基礎疾患がなくても発症した例も見られます。習慣性流産と言われた方、特に動脈硬化がないと思われる若年期に脳梗塞などになった方は、この病気かもしれません。
4. この病気の原因は未だ不明です
遺伝するかどうかもわかっていません。
5. 症状についておさらいしましょう
下肢の深部静脈血栓症
症状としては下肢の腫脹と疼痛が特徴です。
脳梗塞や一過性脳虚血発作
脳血流障害による片頭痛、知能障害、意識障害、てんかんなど種々の中枢神経症状もみられることがあります。
肺梗塞
肺動静脈血栓症や肺高血圧の原因となり、呼吸不全を起こし命にかかわることもあります。
心筋梗塞
末梢動脈の閉塞による皮膚潰瘍
網膜動脈の血栓による失明
一度に複数の部位に上に述べたような血栓症を多発性に起こし、生命の危険を及ぼすこともあり、劇症型抗リン脂質抗体症候群というそうです。
※習慣性流産は、妊娠第1期(3ヶ月以内)に2回以上の自然流産があるか、第2期以降(通常妊娠5.6ケ月以降)に1回以上流産の経験がある場合をいうそうです(知らなかった)。
その他、出産は出来ても胎児仮死、胎児発育遅延などがみられたり、出産後の母体の血栓症の合併も報告されています。
血小板減少に関しては軽度であることが多く、血液検査上で見つかる程度。皮膚に紫斑ができたり、脳出血や、消化管出血による吐血や下血という出血症状は少ないようです。
6. この病気の治療法
まず日常生活における血栓症の危険因子の除去が重要
具体的には禁煙、高血圧や高脂血症の改善、経口避妊薬の中止
急性期の動静脈血栓症の症状に対しては、通常の血栓症の治療に準じて、ウロキナーゼやヘパリンを使った抗凝固療法が行なわれます。
慢性期には、再発予防のために少量のアスピリンやワーファリンが使用されます。
抗リン脂質抗体が陽性の場合でも、血栓症の既往や症状がない場合には積極的な治療の必要性はなく、通常経過観察のみでよいとされています。