当院の認知症に対する取り組みは、介護保険制度が導入される前から始まっています。当初は「痴呆症」と言わざるを得なかったのですが、差別用語だとの解釈で「認知症」という呼び方に代わりました。差別用語という言葉の意味は、「痴呆症」という言葉自体に問題があったわけではありません。
その理由は、「痴呆」の「痴」という漢字は知識や知能の「知」にやまいだれ「疒」がついたものです。つまり、「知識や知能にかかわる病」という意味の漢字です。「痴呆」の「呆」という字はよく見ると、たもつ「保」という字からにんべん「イ」をとった字、言い換えると、「(その)人らしさを保つことができない」状態というふうに捉えることができます。
つまり、「痴呆」症というのは、「知識や知能にかかわる病気で、その人らしさを保つことができなくなる」病状ということを現しており、これこそが認知症を的確に表現していると思うのです。それに比べて、「認知症」という表現は正しくは「認知機能障害」と呼ぶべきであり、「認知」症では病状を説明できない言葉なのですが、この方が、新しい言葉ゆえに世間的に響きは軽く悪いイメージを(まだ)伴っていないという意味で受け入れられました。
というわけで、長い年月をかけて認知症と接してきて、最初は認知症の治療ができる医師が少ないことから積極的に治療に専念しておりました。しかし、他のいかなる疾患にも通じることですが、病気は薬や手術で治すものではなく、本人の体と心全体(全人的)、かつ、本人を取り巻く環境・社会全体にも目を向けて取り組むべきであり、認知症に至ってはこの環境や社会とのかかわりを無視しては本人の居場所がなく、「痴呆症」を「認知症」と言い換えたところでやがては悪いイメージを持った言葉になってしまいかねません。おのずと診療姿勢は介護の世界に深く関心を寄せることになるのですが、介護の世界は生まれて間もなく、医療というサービスを提供してきたプロの目からするとまだまだ初歩的なサービス社会に見えてなりません。
認知症サポート医、認知症疾患医療センターという責任ある立場に置かれた今、自分のしなければならないことは、この認知症を持つ方々が、住みよい街で幸せに暮らせる地域社会にどこまで貢献できるかということに真正面から向き合っていくことだと思っています。
認知症について
15年以上も前(正確には2006年)のブログから認知症についての投稿を集めてみました。懐かしいですが、つまらないものまで入っています。
- 脳のトレーニングを・・・
- 認知症サポーターをご存知ですか?
- 認知症について少しずつ、わかる範囲で(1)
- 認知症について少しずつ、わかる範囲で(2)
- 認知症について少しずつ、わかる範囲で(3)
- 認知症について少しずつ、わかる範囲で(4)
- 認知症について少しずつ、わかる範囲で(5)
- 認知症について少しずつ、わかる範囲で(6)
- 認知症高齢者とともに暮らす街
- もしもあなたが認知症になったら
- あなたはどうしていますか?―介護達成感と満足度
- 高次脳機能障害ー高次脳か脳の高次機能か
- 認知症に対するリハビリテーションー認知神経科学的根拠に基づくアプローチ(1)
- 認知症に対するリハビリテーションー認知神経科学的根拠に基づくアプローチ(2)
- 認知症に対するリハビリテーションー認知神経科学的根拠に基づくアプローチ(3)
- 認知症に対するリハビリテーションー認知神経科学的根拠に基づくアプローチ(4)
- 認知症に対するリハビリテーションー認知神経科学的根拠に基づくアプローチ(5)
- 認知症に対するリハビリテーションー認知神経科学的根拠に基づくアプローチ(6)
- 認知症に対するリハビリテーションー認知神経科学的根拠に基づくアプローチ(7)
- 認知症について(1)― 認知症と高次脳機能障害(1)
- 認知症について(1)― 認知症と高次脳機能障害(2)
- 認知症について(1)― 認知症と高次脳機能障害(3)
- 認知症について(1)― 認知症と高次脳機能障害(4)
- 認知症について(1)― 認知症と高次脳機能障害(5)
- 認知症高齢者の運転について