宇宙医学に注目

地上で生活する人間は1Gという重力下で立って生活をしているので、どうしても血液は下半身に下がってしまいがちです。それでは脳に必要な血液が十分来ないことになるので、それを解決するための神経調節やホルモン調節などのメカニズムが備わっています。
では、無重力状態の宇宙、0G下に置かれるとどうなるでしょうか?


0G下の宇宙に滞在した初期においては、地上で頭のほうに血液が回るように働いていたメカニズムがそのままなので、血液は下半身よりも頭のほうに移動してしまうことになります。この現象を体液の頭方移動(fluid shift)と呼ぶそうです。この状態を想像できますか?
顔がむくみ、特に眼の周りを中心に顔が腫れぼったくなります。頭の周囲の静脈が太くなり(うっ血です)頭が大きくなったような、帽子をかぶったような感じになります。よくSFに出てくる宇宙人の頭を想像しませんか?
人体はこの無重力の状態に適応するため、しばらくすると、体液が多すぎる(から顔が腫れる)と判断し、この過剰状態を解消しようとする反応が引き起され、体液量を減少させます。 こうして宇宙に長期滞在できるようになるわけですが、この状態で再度1Gの地球に戻るとどうなるでしょうか?頭のほうに血液(体液)が多く移動していたなら問題ありませんが、体液を減らすことで宇宙ではバランスをとっていた体液は一気に下半身のほうに下がることになりますので、地上で急に立ち上がった時に見られる血圧低下や失神と同じ現象を引き起こすことになります。
 宇宙にいると体液が減少し、地上に戻った時に血圧低下や失神を起こす、この現象(体液が減少して血圧低下や失神を起こしやすい)は実は、高齢者の生理的機能低下と非常によく似ているのです。
また、地上と違い無重力下では体は宙に浮かびます。宇宙船内の壁をちょっと押すだけで移動することができます。筋肉組織を使う必要性が少なくなりますから容易に筋肉は衰えます。無重力下では姿勢を保つために使う抗重力筋の萎縮が著しく進むといわれます。筋肉の衰えは体力の低下につながり、ひいては生命力の低下を意味します。これも実は老化とよく似た現象なのです。
宇宙飛行士の体液の減少に対する対策として、帰還直前の生理食塩水の投与があります。体力の衰えた老人に必要に応じた点滴治療を、これはよい方法だと思います。
宇宙での筋肉の衰えを予防するためには運動が行われますが、それには短期間の集中的トレーニングではだめで、またゆっくりした疲れないトレーニングもだめで、ある程度の強度を持ったトレーニングを長時間(もうだめと思うくらいまで)持続的に行わなければならないといわれます。
つまり、老化を防ぐ、老化を遅らせるには、今までのようないい加減な運動指導ではなく、比較的強い運動を奨励しなければなりません。
しっかりしたトレーニングを続ければ、相当の水準まで若さを取り戻し、老化を遅らせることができるでしょう。80歳の高齢者でも30歳の筋力を持つことも可能であり、それはつまり30代の体力でいられるということでもあるのです。
これが宇宙医学の応用です。