脳卒中は減ったのか? (2)脳梗塞は減ったのか?

前回までに、
脳出血は減った、
くも膜下出血はやや増加傾向にある、
とお話しました。
そして、脳梗塞で死亡する例は少ないが、脳梗塞自体は増えている、ともすでに書きました。
とはいえ、毎年数十万人の人が脳梗塞になり、数万人の人が脳梗塞で死亡しているとしたら、これは由々しき問題です。
脳梗塞は主に次の4タイプに分けられます。
ラクナ梗塞:脳内小動脈(代表的には穿通枝動脈)が閉塞して起こる
アテローム血栓性脳梗塞:頚部や頭蓋内の比較的大きな動脈が、アテローム硬化(粥状硬化:じゅくじょうこうかと読みます)が原因で閉塞して起こる
心原性脳塞栓症:心疾患が原因でできた血栓が血流に乗って(塞栓が飛んで)離れた脳動脈に至って閉塞して起こる
分類不能の脳梗塞:急激な血圧低下、脱水、発熱などが誘因となって起こる
脳梗塞4タイプ.gif
今まで、ラクナ梗塞が脳梗塞の半数以上を占めるといわれてきましたが、ここ10年で様相は様変わりし、ラクナ梗塞、アテローム血栓性脳梗塞、心原性脳塞栓症でほぼ3等分(心原性脳塞栓症がわずかに少ない)するほどにアテローム血栓性脳梗塞が増加してきました。これは、日本人の食生活が変わり、食塩感受性高血圧が減って食塩非感受性高血圧、つまり脂質異常による高血圧が増えたことと深く関連があります。
重症度で並べると、心原性脳塞栓症が最も重症で、次いでアテローム血栓性脳梗塞が続き、ラクナ梗塞は最も軽症です。
脳梗塞ではあまり死ぬことはない、といったラクナ梗塞より、より重症なアテローム血栓性脳梗塞や死亡率の高い心原性脳塞栓症が増えつつあるとしたら、死因統計がまた変わる可能性も無きにしも非ずではないでしょうか?
でも、脳梗塞は、たとえラクナ梗塞でなくても、早く見つけて早く治療すれば良い結果も得られる脳血管疾患です。
では、
(1)脳梗塞を早く見つけるために
以下の症状は脳梗塞の前ぶれかもしれません。
・片方の手足や顔半分の麻痺・しびれが起こる
・ろれつが回らない、言葉が出ない、他人の言うことが理解できない
・力はあるのに、立てない、歩けない、ふらふらする、めまいがする
・物が見づらい
片方の目が見えない、ものが二つに見える、視野の半分が欠ける
たとえ一時的で軽くても、
(2)こんな時はあわてず落ち着いて行動し、すぐに救急車を呼んで病院へ搬送してもらいましょう。外で異変に気付いた時は、公衆電話からの119番は無料です。携帯電話から電話するときは、自分の電話番号を伝えておき、かけ終わった後も、電源を入れた状態で電波の入るところにいることです。ここで注意していただきたいことは、携帯電話の電源ボタンと通話完了ボタンが同じなので(メーカーに改良を求めます)長押ししないことです。高齢者の方や使い慣れない方はとかく、ボタンを確実に押そうとして電源ボタンを長押しして電源そのものを切ってしまうようです。これでは、居場所を探すことができなくなってしまいます。
「しばらく 様子を見よう」というのは禁物です。
(3)もし、あなたが目の前で患者さんを見つけたら、
救急車が来るまでに 適切な場所に寝かせてあげましょう。そして余裕があったら、症状をメモしておくとよいでしょう。
交通量の多いところ・直射日光の当たる場所で発作を起こした場合は、安全で日陰の多い場所に移します。
患者さんに意識があっても、自分で立たせるのは危険です。症状が悪化するかもしれません。移動はできるだけそっと行います。
衣服やベルトを緩めて血圧が上がらない、呼吸のしやすい楽な姿勢にします
頭の下に枕はしない。顎が引けて呼吸を妨げることがあるからです。タオルや上着を畳んだ程度のものを肩の下に入れてあげるとよいでしょう。
吐き気がある場合は、あお向けではなく、 横向きに寝かせましょう(麻痺がある側を上にするのが正しいやり方ですが、とりあえず、どっち向きでも良いです)。
人口の高齢化が進む中で、脳梗塞発症は増える可能性は大きいです。この程度の救急処置でも知っているといざという時に大いに役立つはずです。


脳梗塞で救急搬送されて行われる治療は以下のようなものです。
・血栓溶解薬(t-PA)
血管に詰まった血栓を溶かし、血流を回復させる薬です。発症3時間以内に投与すれば、大きな効果が期待できます(だからこそ、ちょっと様子を見ていてはいけないのです)。
・抗血小板薬
血小板の働きを抑え、動脈内で血栓ができるのを防ぐ薬です。アスピリン、プラビックス、プレタールなどが広く用いられています。
・抗凝固薬
血液を固まりにくくすることで、心臓や静脈内で血栓ができないようにし、脳梗塞の悪化を防ぐ薬です(ワーファリン、ダビガトラン)。
・脳保護薬
脳梗塞が起こったときに発生する有害物質(フリーラジカル)を取り除き、脳細胞を壊死から守る薬です。後遺症を軽減する効果が確かめられています。
・急性期の治療で外科的治療がおこなわれることは原則としてありません。
脳出血もクモ膜下出血も予防について書きました。脳梗塞ではどんな予防法があるでしょうか。
①高血圧や糖尿病にならない
食べ過ぎに注意、塩分や動物性脂肪を控えた食事、カリウム(野菜や果物に多く含まれています)の摂取、運動(少し汗ばむ程度の早 歩きを毎日30分)、たばこをやめる、大酒を飲まない、
②高血圧、糖尿病、高コレステロール血症の人は、それらの治療を継続する
③心房細動(不整脈の一種)があれば、治療を受ける
さらっと書きましたが、情報は巷に氾濫しています。うまく活用してください。
最後に、巷にあっても、案外目に留まっていない情報をご紹介して終わります。
◆一過性黒内障という目の症状をご存知ですか?
頚動脈に強い動脈硬化がある場合に起こる症状で、
急に片方の視力が落ちて、数秒から数分で回復します。
頚動脈にでき た血栓の一部がはがれて、眼動脈に流れ込んで起こるものです。
一過性黒内障は、症状が数分以内に回復するため、ただちに医療機関を受診するということは少 ないようですが、特に注意が必要なTIA(一過性脳虚血発作)の1つです。
脳梗塞の予防法のところで、心房細動という不整脈がある人は治療を受ける(③)と書きました。
心原性脳塞栓症を起こしやすい不整脈なので、ワーファリンという抗凝固薬を服用する必要があります。特に、心房細動といわれている人で以下の条件を満たす人はワーファリンが必要です。
◆CHADS2スコア
congestive heart failure(うっ血性心不全)
hypertention(高血圧)
age 75years or older(年齢75歳以上)
diabetes mellitus(糖尿病)
⑤history of stroke or transient ishemic attack(梗塞あるいは一過性虚血発作の既往)
①~④の項目があれば各1点、 ⑤の場合だけ 2点 と計算して合計点を算出します。
合計点が、
0点なら 抗血栓薬は不要、
2点以上なら ワーファリンの服用を推奨する
という便利なスコアです。
あなたは心房細動ですと言われている方、あるいは不整脈があると言われている方は、主治医に相談してみてください。「チャズスコア」または「チャズツースコア」と言ってみましょう。