認知症に対するリハビリテーション : 認知神経科学的根拠に基づくアプローチ(7)

おわりに
運動療法におけるリハビリは連合野を活用することであり、認知症におけるそれは連合野を活性化することにある

『”遊びリテーション”という言葉は馴染みのある言葉になったけれど、実は1989年に医学書院から発刊された「遊びリテーション-障害老人の遊び・ゲームの処方集-」がその語源である。その本は、私を含めて四人の共著だが、本の題名を決める時に「遊びの楽しさの中でリハビリの訓練が出来る」という意味付けで遊びリテーションという言葉が提案され、それが本の題名となった。苦しい訓練から面白おかしく心を動かすリハビリへの発想の転換は、多くの支持者を得ながら一大ブームとなった。・・・』
とおっしゃるのは、著書『遊びリテーション』の著者のおひとりである稲川 利光先生ですが、すでに「心を動かす」リハビリと表現されています。
実は、相手の心(内面)のイメージを知ることがすべてのリハビリに不可欠なことなのです。例えば脳卒中後のリハビリ(運動療法)では、上手に麻痺した手を動かしている自分、上手に話している自分をイメージしても意味がありません。それは空想の世界に見える「3人称的な自分」のイメージですが、リハビリに有効なイメージは動かしている手、話している口やのどの振動でなければ結果が現れません。リハビリの対象者は、自分の手や口の動きとそれによって生まれる動作や言葉を脳でイメージすることで麻痺した手や口を動かそうとするのです。それは言い換えれば「1人称的な自分」のイメージです。そのためには、あなたは対象者と同じ視点に立つ必要があります。対象者が指示された動作をどのようなイメージで動かそうとしているのか、その時にどんな感じがしたのかを知らなければなりませんし、より有効なイメージを作り動作を完了するための支援をしなければなりません。
運動療法におけるリハビリは連合野を活用することであり、認知症におけるそれは連合野を活性化することに視点が置かれます。つまりリハビリの進め方が、認知症のリハビリと運動療法のそれでは異なると言えます。筆者がここで強調したかったことは、認知症のリハビリと称して様々な取り組みがなされておりますが、それは「笑ってもらっていくら」「楽しませていくら」という自己満足的な日常の繰り返しではなく、大脳連合野の活性化という科学的根拠のある目的を持って行っている確かなリハビリなのだということを再認識していただきたいということです。
明日からの認知症リハビリが違った目で見られるように。
認知症の人に対するリハビリの目的とは、自己の意識を高め、主体性と協調性を取り戻し、「自他共に生きる」自分を見出すことだとお話ししました。
冒頭で述べたように、高度の認知症にリハビリはいらないという意見がある一方で「ぼけても心は生きている」と強調する意見もあります。
あなたはどう考えますか?