認知症疾患医療センターとしての取り組み(令和2年)

 現在、認知症疾患医療センターには3つのタイプ(基幹型、地域型、連携型)があります。当院は連携型のタイプです。タイプによってセンターの役割は多少違いがありますが、➀早期・鑑別診断、➁専門医療相談、➂身体合併症と周辺症状の急性期治療、④かかりつけ医等への研修会、⑤情報発信となっています。

 当院は令和元年に北海道からセンターとして指定を受けました。初年度は、センターとしての活動をどのように進めていくべきか、センターであることの情報発信はどの程度行ってよいものなのか、まったく情報不足の中で終わってしまいました。医師会からも声はかからず、市役所からもなしのつぶてで、かろうじて自分たちがパンフレットを作って情報発信のために歩き回ったところから細々と患者様が紹介されて1年が終わりました。待っているだけでは何も進まない、基幹型の市立病院の精神科とは一線を引いて、連携型のセンターとして何ができるのか、当院では自ら道を開く決意をしました。

 認知症外来は開設しておよそ20年、受付の対応や外来ナースの対応はすでに板についており、急性期脳卒中の看護を手掛けてきた病棟ナースも当初は手に負えなかったBPSDの症例にもうまく対応できるようになりました。言い換えると、大方の認知症症状に出会っても、自前で外来診断治療ができるし、身体合併症を持っている認知症であっても入院治療ができる利点は、本人やご家族に安心していただける要因にはならないでしょうか。「困ったときの島田脳外科」が、センター事業にも生かされるのではないでしょうか。

 現在のところ、センターに患者様を紹介してくださるかかりつけ医の先生たちは増えてきているのですが、センターの本来の業務である、かかりつけ医に情報提供をして患者様を戻すという作業があまりできていません。それは、かかりつけ医の先生方はすでに認知症の診断治療を行ってきており、センターに紹介してくる症例は困難事例の場合が多く、手に負えない状況になったからあとを引き継いでほしいというのが理由だからです。これからは、日常の診療は長年診てくださっているかかりつけ医の下へ戻してあげることを積極的に進めていかなければならないと思っています。

 センターとして機能して以来、ずっと燻ぶっていた「地域の医療機関、地域包括支援センター、市町村、保健所・保健センター等の関係機関、家族介護者の会などとの連携を図るため、協議会等を開催し、地域において関係者が密接に連携するネットワークづくりに向けた検討」という重要な責務を果たさなければなりません。とはいえ、当センターに医師会や行政機関がどれほどの期待を持っているでしょうか?今のところ、ここで出しゃばっても力不足の感が否めません。それよりも、介護施設や介護家族の人たちこそが現場の主役であることを考え、お互いが顔を合わせられる距離感を作ることで認知症の治療と介護のスキルアップを図っていこうと思います。

 そしてもう一つ、市内には現在4つの認知症初期集中支援チームがあり、当センターも認知症サポート医として早くから登録していますので、チームや認知症連絡協議会と当センターとの連動を図り、認知症疑いの方に対して早期に介入し 医療や介護につなげる活動を行っていこうと思います。

 そんなわけで、令和2年は、介護スタッフ向けのテキストを作成しました。それをもとに研修会を企画しています。3密を避けるため、小規模の研修会を中心に進めていく予定で作業は進んでいます。

 まだまだ無名の認知症疾患医療センターですが、スタッフの熱意に動かされ少しずつ自分の足で立ち上がろうとしています。当認知症疾患医療センターをどうぞご利用ください。

 作成したテキストはPDFでご提供いたします。ダウンロードしてご覧ください。ご興味がある方は個人でも施設や団体でも、職種の是非は問いません。100ページに及ぶ内容なので、約5MBになります。ご感想やご意見をいただけたらとてもうれしいです。(井の中の蛙の町医者ですが、皆様からお声がかかるのを楽しみにしています。どうぞよろしく)

2020.10.10 島田 孝