特別寄稿 1

歯周病とコロナウイルス感染症の関係  

   歯科医から聞いたお話

大体お前は気づくのが遅いんだよ

 つい最近、歯科医の友人から「歯周病は新型コロナウイルス感染症の死亡や重症化リスクを高める要因である」という話を聞きました。

 「えー!それってすごく重要なことじゃないか?なんで、もっと声を大にして国民に訴えないんだ?」

 「お前なあ、そこに貼ってあるポスターをよく見ろよ。歯周病は感染リスクを高めるって書いてるだろ?新型コロナウイルスも例外に非ずって、俺が達筆で付け加えてるだろうさ。大体お前は気づくのが遅いんだよ」

 (ほんとに、そうだろうか? 歯周病とコロナウィルス感染症との関係について一般の人はどれだけ知っているのだろうか? マスコミはそんなにこのことについて取り上げていただろうか? むしろ、歯科医院に行ったらコロナウイルスの飛沫が飛び交っていて感染する危険が高いと勘違いされたことはなかっただろうか? 巷で、歯周病治療や口腔ケアに関心を持つ市民が増えてきているというニュースを聞いたことはない。公共広告機構でも、そんな電子ポスターは見たことがない。)

イギリスの著名な医学雑誌「ランセット」に論文が載っていました

 「新型コロナ感染症での口腔内細菌の役割 The role of oral bacteria in COVID-19 」((ランセット)によれば、新型コロナウイルス感染症の死亡や重症化リスクを高める要因として、これまで言われていた心臓病、高血圧、糖尿病などだけではなく、口腔内細菌(歯周病菌など)も関係しているというのです。

 歯科の研究チームが新型コロナウイルス感染症で死亡した人を調べたところ、歯周病菌が大量に見つかったといいます。口腔内の衛生状態が悪く口の中が汚れていて歯周病などがある人は、コロナウイルスに感染した場合、重症化リスクが高まる可能性があるというのです。

「歯周病は感染症の重大なリスクファクター」これは常識だぞ

 友人の歯科医たちは口をそろえて歯周病は感染症の重大なリスクファクターだと強調します。僕は脳血管障害や認知症が専門だから、脳梗塞や心筋梗塞、誤嚥性肺炎、アルツハイマー病のリスクファクターだと言われても「知ってるよ」と答えられます。でも、感染症のリスクファクターでもあり、ましてや今驚異のコロナウイルス感染とも重大な関係があると言われると、「勉強不足」と言わざるを得ません。

 そんなプライド云々の話よりも、こんな重要な事実をもっと多くの人たちに知らせるべきではないだろうかと思い、日本歯周病学会のホームページをのぞかせていただきました。

歯周病の原因となるのは、歯垢と呼ばれる細菌(の塊)です 

 日本歯周病病学会のホームページで「歯周病が全身に及ぼす影響」というタイトルのページを読むと、のっけから「歯周病の原因は歯垢と呼ばれる「細菌」だと書かれていて、「えっ!歯垢って細菌なの?」と驚きますが、どうやら、「歯垢」=「細菌の名前」ではなく、歯垢には多くの細菌が溜まっていて「細菌の塊」だということのようです。 

 歯垢というもの自体は、不適切な歯磨きなどで歯に付着して残ったねばねばした黄白色の粘着物ですが、この歯垢が積み重なって石のようになったものが歯石ということになります。このようにして厚くなった歯垢の内部には当然酸素が届かなくなり、そうなると酸素がない所で生育する「嫌気性菌」と呼ばれる細菌群が繁殖するようになります。この嫌気性菌群によっておこる炎症が歯周病だということです。

 さらに、このページには、歯周病と糖尿病、心筋梗塞、脳梗塞、動脈硬化、生活習慣病、誤嚥性肺炎、骨粗鬆症、妊娠性歯肉炎、低体重児早産などとのかかわりについても紹介しています。「そんなこと知ってるよ」と豪語していた僕にとっても、「釈迦に説法」にあらず、「目からウロコ」的な内容でした。

 この、歯周病学会の記事のみならず、ネットで検索してみると多くの歯科医の方々が「歯周病は感染の重大なリスク」と強調しており、歯科学会では確かに「常識」になっているようです。でも、「歯周病とコロナウイルスとのかかわりについて」となるとあまり関連する記事が見つかりません。

見つけました、「新型コロナ感染症と口腔内の関連 THE MOUTH-COVID CONNECTION」(カリフォルニア歯科医師会)」

 THE MOUTH-COVID CONNECTION、略してMCC、と題する海外の報告に、コロナウイルス感染症と歯周病の関りについて紹介されていました。それによると、「歯周病で上昇する有害な炎症惹起性タンパク質(IL-6、インターロイキン-6と読みます))のレベルが高い患者は、生命にかかわる呼吸障害に苦しむリスクが高く」「「歯周病がある入院コロナ患者は、呼吸不全のリスクが高」くなると結論付けています。

子供が新型コロナに感染しにくく、重症化しにくい理由

 歯周病は世界で最も多い感染症としてギネスブックにも登録されているそうです。日本では20歳代の人口の約7割、30~50歳代の約8割、60歳代では約9割が歯周病にかかっていると言われていますが、子どもには歯周病がほとんどありません。

 歯周病菌はプロテアーゼという酵素を出します。この酵素が粘膜を傷つけてウイルスを侵入しやすくしています。また、歯周病で歯ぐきに慢性的な炎症が起きていると炎症惹起性タンパク質(IL-6)が産生され、ウイルスによる感染を促進します。先ほどの報告にもあったように、新型コロナウイルスによる感染も歯周病があると促進されやすくまた重症化しやすいというわけで、一方、歯周病がほとんどない子供に至っては、新型コロナに感染するリスクが低く、感染しても比較的軽症で済むケースが多いというわけです。

高齢者は誤嚥するだけで肺炎になりやすく、コロナに感染しやすくなる

 若い人は食事中に誤嚥しても、強い咳き込みによって気管に入った異物を排除(喀出)できますが、年をとるにつれて食べたものが気管に入りやすくなると同時に咳をする力も衰えていきます。時には寝ている間に唾液を誤嚥しても気づかずにいる(不顕性誤嚥と呼びます)こともあります。もしこの誤嚥した異物や唾液に歯周病菌が付着していると肺炎を引き起こし、先ほど述べたIL-6と呼ばれる炎症惹起性タンパク質が上昇してコロナウイルスによる感染を招きやすくしかつ重症化させる危険度が高くなります。

➀ 歯周病菌が放出する毒素、プロテアーゼ

➁ 歯周病菌が放出する炎症惹起性タンパク質、IL-6(インターロイキン)

➂ 歯周病菌自体による誤嚥性肺炎

この3つのメカニズムが、新型コロナに感染させやすく、かつ、感染すると重症化を招きやすい重大なリスクファクターというわけで。

成人ならだれもが持っている歯周病、されど侮るべからず

というのが、特に強調したかったお話です。

 最後に、数字を提示されると納得される方のために、

 ドイツの研究ではIL-6レベルが80pg/mlを超える入院コロナ患者はIL-6レベルが80pg/ml未満の患者と比較して、急性呼吸障害に陥り人工呼吸器を装着する可能性が22倍高いということです。

 また、新型コロナウイルス感染で、重症化しない患者に比べて、重症化した患者はIL-6レベルが3倍高いことが明らかになっています。

 歯科に行ったらコロナを移されてくるということはありません。歯科医は細心の注意を払って診療しておられます。それよりも、歯周病、これを少しでも改善させて、さらなる対策を講じてはいかがでしょうか?

 さらなる対策って?

それは次の寄稿で、ご紹介します。

 皆さん、  コロナに負けるな!!