わかりやすい頭痛の話 各論1 片頭痛

ここからいよいよ頭痛と呼ばれる疾患(一次性頭痛)についてできるだけわかりやすくお話していきたいと思います。
まずは、片頭痛からです。
じつは、片頭痛についてお話しするのをちょっとためらっています。
なぜかというと、あまりに内容が膨大になりそうだからです。皆さんの経験する頭痛のどれにも片頭痛の要素が見つかってしまうのではないかと思うのです。
片頭痛は一次性頭痛、あるいは慢性頭痛といわれる良性の頭痛に属します。ですから、大概の場合は放置していても問題にはならないのです。にもかかわらず、ある時期、製薬メーカーが中心になって片頭痛の全国的なキャンペーンが張られました。どうしてでしょう?それは、頭痛でお悩みの方の大半が実は片頭痛であるにもかかわらず、医師も本人もよく周知していない現状があまりにも多かったからです。かくして、今まで単なる肩こりから来る緊張型頭痛と言われていた頭痛にも片頭痛があるということになり、偏頭痛の薬をもらう患者さんが急に増えました。
これは変です。片頭痛イコール片頭痛治療薬である必要はないのです。
これからお話しする中には、「えっ、これも片頭痛?」と思われるような内容も出てくると思いますし、これを書き終えたころ僕の頭の中ではたくさんの片頭痛風船がパンパンと破裂していることでしょう。
できるだけわかりやすく、できるだけさらっと…では、いきましょう。
片頭痛とは、とよく言いますが、ここではそれは止めておきます。定義を知ったところで痛みは良くなりませんから。
片頭痛は頭痛の発作です。発作というのは、突然に起こる繰り返し起こる比較的短時間に終わる、ということです。「夕立」のようだとたとえる方もいます。
片頭痛は突然起こるのでしょうか?
1.ほとんどの場合は突然に起こるといわれます。
これは頭痛が突然はじまると思われがちですが、実は、その前に肩こりが突然始まるようです。
2.前兆のある片頭痛もあります。
1.についてもう少し詳しくお話します。
片頭痛の症状として前兆(前兆についてはこの後に説明します)の前の「予兆」というのがあります。前触れです。
予兆は「肩こり」や「生あくび」、「空腹感」などの体調の変化で、中でも一番多いのが「肩こり」です。
病院で緊張型頭痛と誤って診断されることがあります。
閃輝暗点などの前兆は一部の人にしかみられません(片頭痛患者さんの20%程度)が、予兆は多くの患者 さんに現れ、頭痛の直前に首から後頭部に向かって肩こりがグーッと上がってくるように感じることがあります。
予兆としての肩こりが通常の肩こりと異なる点は突然出現し、生あくびや空腹感など他の随伴症状が同時 に起ることです。
さらに「動くとガンガン響いて辛い」「吐き気がして吐いてしまう」「光、音、匂いに過敏になる」など の特徴があれば片頭痛が確実と判断されます。
緊張型頭痛の肩こりは慢性的で、動いてひどくなるなどの症状の動揺や変化が少ないため、片頭痛との判 別は容易になります。
では、2.の前兆についてです。
片頭痛の前兆とは、多くは片頭痛の直前に起こる神経症状(「奇妙な光が見える」「嫌なにおいがする」「頭の中が混乱する」など)をいいます。
視覚的な前兆が最も多いタイプです。「閃輝暗点」と呼ばれます。
暗点は、突然、両眼の同じような位置に現れます。
初めは小さく、数分間にわたって次第に拡大し、やがて視野の半分をふさぎます。
暗点はキラキラ光るギザギザの縁を持っています。
ほかに閃光のことも、幾何学的な模様のことも、形容しがたい模様のこともあります。
感覚的な前兆では、「ちくちく感」が顔、腕または脚に現れ、移動し、横断します。やがてしびれ感とな り、最高1時間ほど持続します。
言語機能に見られる前兆として、発語、作文、思考が困難になることがあります。
こうした前兆の持続時間はふつう10~60分の範囲内です(多くは20~30分)。
前兆はビックリするような症状ではありますが、現れては消え、後遺症を残しません。
しかし、この前兆が起こっている間は局所的に脳の血流低下が起こっています。直後に来る頭痛は、この 後の脳血流量の回復によって血管が急激に拡張するためです。
したがって、閃輝暗点が頻回に繰り返されると大脳皮質細胞の器質的な変化が起こる危険性もあるので検 査を受けるべきです。
前兆の後に一般的には頭痛が襲ってくるわけですが、まれに頭痛が来ない前兆だけのこともあるといわれ ています。
そういえば、「急に目の前が白くなってその後しばらく物が見えなくなったので眼科に行ったら脳 外科に行くように言われたと言って受診した少し年配の患者さんがいました。脳梗塞の前兆とも思えない し、頭痛が起きてないから片頭痛でもなさそうだし…と思いつつ、「片頭痛では神経症状の出るタイプも あるので、片頭痛かもしれないと思って経過を見てください」とお話して帰っていただいたことがありま す。…あの方はその後どうしたでしょうね。

片頭痛は繰り返し起こります。では、どのくらいの頻度で繰り返すのでしょうか?
頻度は月に1~2回、少なくて年数回、多いときで週に1回程度、といわれます。毎日頭痛があるということはありません。
頭痛が起こっている間は日常生活や活動に影響が出ます。仕事や勉学や家事などの日常生活に支障をきたします。
動くとガンガン響いてつらいので、休むか、横になりたくなりますが、頭痛が治まるといつも通り普通の生活ができます。
さらに、片頭痛はつらいけど、比較的短時間に終わると言いました。
持続時間はどのくらいなのかといいますと、4~72時間といわれています。
72時間…え~と…3日間…3日間も~?
はい、3日間を短時間と呼ぶかどうかは異論のあるところですが、3日間もつらい頭痛が続くという人は…かわいそうでしたが実際にいました。


Q:片頭痛はなぜ起こるのですか?
A:いろいろ言われてますが、それを知っても楽にはなりませんので、ここでは省略します。
Q:片頭痛の治療は?
A:1.普通の鎮痛薬でも頭痛が始まる早い時期なら痛みは治まります。
頭痛の始まりそうな早い時期に飲むのがコツです。頭痛が始まってしまっては効果は期待できませんのでよく知っておいてください。
2.普通の鎮痛薬では吐き気が誘発されて役に立たなかったり、効果が現れなければ、片頭痛治療薬を使います。
片頭痛治療薬には、トリプタン製剤(イミグラン、ゾーミッグ、レルパックス、マクサルト、アマージなど)がお奨めです。
この薬なら、頭痛が始まってピークに達していても、効果は期待できます。(ただし、頭痛のピーク時は吐き気もひどいですから薬を飲んでも吐いてしまうかもしれません。)
ほかには、カフェルゴット、クリアミンなどのエルゴタミン製剤というのが以前から使われてきた薬として現在も残っていますが、「あまりお奨めしません」とこの機会に宣言しておきます。
3.片頭痛の治療薬は飲む回数や量に制限があるので、つきに10回以上も繰り返すときは片頭痛予防薬を飲んで発作を予防します。ミグシスやテラナスという薬がそれです。この薬を1日2回、毎日続けて服用します。予防薬は速効性があるわけではなく、少なくとも1ヵ月以上続けて服用しないと効果が実感しにくいことを理解しておいてください。また、予防薬を飲んでいても片頭痛が起る場合は、鎮痛薬やトリプタンを併用します。予防薬は何年も継続するものではなく、いつかやめられるときがきます。反対に、この予防薬を使わずに鎮痛薬ばかり続けていると、こじれて薬物乱用頭痛という厄介な頭痛を抱えることになりますから、どちらが楽かよく考えてみてください。
4.漢方薬では、釣藤散(ちょうとうさん)、呉茱萸湯(ごしゅゆとう)などが片頭痛の予防に使われるようです。
5.うっかりして大事な情報をお伝えしていませんでした。(あとで自分の記事を読み直して気が付きました。)
てんかんの治療薬でデパケンという薬があります。デパケンRという薬も服用の仕方が違うだけで同じ薬です。実はこの薬、片頭痛の予防にも治療にも著効します。脳外科医よりも患者さん自身のほうがその効能をいち早くキャッチしていた、というくらいにドラマチックな薬です。
服用の仕方などは先生にご相談ください。試して損のない薬です。ただし、薬は薬です、副作用が皆無というわけではありませんので自分勝手に始めないように。
Q:薬を使わない片頭痛対策はありませんか?
A:それには、どういうときに片頭痛が起こりやすいのか、探してみることにします。えーっと・・・これかな・・・
・チ―ズや赤ワインは、(thyramine, phenylthyramineなど血管作働性アミンとヒスタミンを含む)片頭痛を誘発します。赤ワインには、抗酸化作用があって動脈硬化を予防してくれるというのに・・・皮肉ですねえ。
・「ホットドッグ頭痛(片頭痛)」は日本では起こらないから安心してハムやソーセージを食べてよい。
・コ―ヒ―を多飲するとカフェイン禁断性頭痛(片頭痛)がおこる。多飲というのは、1日4,5杯くらいでしょうか、これを毎日続けていると、カフェインが切れてくると片頭痛が始まるというわけです。飲むと軽減します。
・チョコレ―ト、チ―ズなども片頭痛を誘発する食品として有名ですが、日本人は食品にはそれほど敏感ではないという意見も。
・赤ワインに限らず、アルコールは血管拡張作用がありますから、片頭痛や群発頭痛を誘発します。
・寝不足は片頭痛の原因になります。でも、寝すぎも片頭痛の原因になるとか。
・空腹(低血糖)、騒音、換気の悪さ、香水の匂い、暑さ、乾燥、日光等の影響で片頭痛が誘発されます。外出時は注意が必要です。
・温まると血管が拡張して片頭痛はひどくなります。入浴は避けてシャワーくらいにしましょう。
・月経前や月経中などに片頭痛発作が集中して起こりやすい。
・極端なダイエットは低血糖を起こし、偏ったダイエットを長期間続けると貧血となり、片頭痛が起こりやすくなります。「ダイエット頭痛(片頭痛)」と名付けておきましょう。
片頭痛の項の最後として、以下のことを付け加えたいと思います。
片頭痛が女性に多いことはご存知の方も多いと思います。思春期ごろから多くなり、30歳代にピークがあり、60歳頃には片頭痛の人は少なくなります。
つまり、もしあなたの年齢が70歳以上だったら、今まで述べてきたような頭痛にあなたの頭痛が似ていたとしても、それは片頭痛ではありません。