やけど防止スリーブ

脳に視床といわれる部位があります。間脳といわれるところにあり、知覚を大脳皮質(感覚野)に伝える入力システムの大事な中継核です。この視床も脳卒中の後発部位の一つで、この部位の後遺症は運動麻痺ではなく感覚障害が起こります。有名なものに「視床痛」というのがあります。「何かが肩や腕にへばりついてビリビリと電気を流しているような」「ジリジリと焼けつくような不快な」感覚と表現されますが、イメージできますか?通常の鎮痛剤ではコントロールできません。てんかん治療薬や安定剤や抗うつ剤を使うこともありますが、期待したほどの効果はなく、副作用で中断することも少なくありません。最近出たプレガバリン(Pregabalin)という内服薬が有効です。
今回お話しするのは、視床痛ではありません。
視床の障害で起こる後遺症にはもっと高度な感覚障害、つまり知覚脱失(完全な感覚麻痺)もあるわけです。
いつも外来では、今述べた頑固な視床痛をどうしようかと悩むことが多かったのですが、この知覚脱失も意外とたちが悪いもので、日常注意が必要なのは「やけど」です。特に主婦の場合は台所に立って火や熱を扱う機会が多いのでやけどの危険度が高くなります。
視床の障害だけですと、運動麻痺を伴わないで、この視床の感覚障害だけ後遺症として残るのですが、感覚障害というのは見た目にはわからない後遺症ですから、周りに理解してもらえない精神的苦痛も伴うようです。視床痛の治療に抗うつ剤を使う理由の一つです。先ほど紹介したプレガバリン(Pregabalin)もさすがにこの知覚の完全脱失には効果はありません。

当院にもこの完全知覚脱失の後遺症を持った主婦の方がいらっしゃいます。よくやけどをします。たぶんガスコンロにかけたお鍋の上に手をかざしてその向こうにあるものを取ろうとして熱くなったお鍋に腕を付けてしまうのでしょう。前腕の内側に何本もの線状のやけどの痕が残っています。
先日外来を受診した際に、「スポーツに使うリストバンドとかサポーターを(やけど防止に)するのはどうでしょうか?」と相談を受けました。やけどの痕が、一見すると、リストカットの痕のように見えてしまい、友人から不審な目で、「その傷どうしたの?」と聞かれて、そのたびにその場の空気が重くなるというのです。
「リストバンドはアイデアとしては悪くないですが、燃えたり溶けたりしたら余計危険ですから、やめてください。ネットで調べてみます。防刃スリーブというものがセキュリティーグッズであるのでやけど防止のものも探せばあると思うので。」(僕がアーチェリーを始めたころ、フォームがまだ完成していないうちから矢を放っていたので、よく弦で自分の腕を傷めていました。青あざになるだけならまだ良いほうでそれこそやけどの痕のように線状の痕が残ります。このときに「防刃スリーブ」なるものを見つけて使っていたのです。アーチェリーにはちゃんと「アームガード」というアクセサリーツールがあるので本来ならそれを購入すればよいのですが)
見つけました。商品名「ホットスリーブ」なる、やけど防止スリーブを。商品名を出すのはどうかと思いましたが、ほかに同種の商品は見当たりませんでした。やけど防止なのに、「ホット」なスリーブとはおかしな名前ですが、間違いありません、やけど防止用です。商品の挿絵には、車のエンジンルームを開けて作業している絵が載っていましたから、そういう作業で使われるものなんですね。
これを少し加工すれば使えるんじゃないでしょうか?
さっそく連絡しました、あの方に。
お役に立つといいのですが・・・。